衝突などによって機械や構造物が衝撃を受ける場合にも応力が発生するが,このような場合には慣性の影響が現れ静的な力の釣合は成立しない.慣性の影響は応力波の発生伝ぱとして現れ,その挙動は,静的な場合に較べて著しく複雑になる.
はじめに,図のように質量Mが速度V0で棒に衝突する時棒に生ずる応力を例に衝撃応力の評価法を考える.
1)エネルギー法による解
最も簡単な解法は,エネルギーのバランスを考えて得られる.すなわち,
(衝突前の質量の運動エネルギー)=(衝突後の棒のひずみエネルギー)
と仮定すれば,生ずる応力seは
となる.ここで,Cは応力波の伝ぱ速度すなわち棒中の音速であり,b は棒の質量とMとの比である.(1)によれば,発生応力は衝突速度V0に比例し,衝突物の質量の平方根に比例する.
これからも分かるように,衝撃応力は基本的に衝突速度に比例する.
2)ばね質量モデルによる解
1)では時間の影響を無視している.実際には動いているのであるから,時間経過を考慮する必要がある.そこで,棒をばね定数Kのばねと見なし,運動方程式を導いて解を求める.先ず棒の等価なバネ定数はK = AE
/ l と置けるから,ばねのたわみをd とすれば,運動方程式及び初期条件はtを時間として
これの解は
ここで,w はこの系の固有振動数である.ばねに加わる荷重はP = Kd であるから,棒に生ずる応力ss はこれを断面積でわって
となる.ここで,t はtを棒中を応力波が1度通過する時間でわった無次元化時間である.式(2)の最大応力はエネルギー法による解式(1)と一致する.ばね質量モデルに基づいて衝撃応力を評価する方法として,動荷重係数の考え方がある.
3)応力波を考慮した場合(棒の質量を考慮)
2)では時間の影響を考慮したが棒の質量は無視している.これを考慮すれば,棒の支配方程式は次の波動方程式となる.
ここで,f は変位u ,変位速度v ,応力s ,ひずみe あるいは引張力Nであり,これらの間には次の関係が成立する.
式(a)は応力が波動現象として棒中を伝ぱすることを表しており,一次元問題ではあるが,厳密解が得られる.
一方,棒と質量が衝突し接触を保っていれば,質量に関する運動方程式はその速度をVとして,
となる.棒は最初静止しており,かつ,右端は固定されているものとして,ラプラス変換法を利用してこれらを解けば,棒の応力は次式で与えられる.
ここで,zは棒の位置xと棒の長さlとの比である.式(3)右辺の積分はいわゆるブロムウイッチ積分であり,要するに,{ cosh(
p ( 1 - z ) )
}/{ psinh(
p ) + b codh( p
) }の逆ラプラス変換である.
計算例
以上3つの解の計算例を下図に示す.図は棒先端における値であるが,応力波伝ぱ理論による結果では,t = 2すなわち,棒中を応力波が1往復する毎に固定端からの反射波が到達し,応力値は2s0 ジャンプし,鋸歯状に変化することがわかる.
図の縦軸はs0 / b0.5 で無次元化してあるので,発生し得る最大応力は質量Mが大きいほど大きい.応力波伝ぱの影響はbが大きい,すなわち,Mが小さいほど大きく現れ,エネルギー法やバネ質量モデルとの差が大きい.すなわち,小さい物体が高速で衝突して短時間に破壊にいたる場合には応力波の影響を考慮する必要がある.対して,比較的大きい物体が低速で衝突し十分時間が経過した後に破壊に至るような場合はエネルギ法あるいはばね質量モデルで十分である.