図式解法
棒中を伝ぱする応力波の引張応力s と変位速度vの間には次の関係がある. 
  
ここで,xは棒の軸方向座標であり,変位速度はx>0方向を正とする.
  
 
例1]一端に引張りを受ける棒

棒の一端を速度V0 で急激に引っ張ると,応力及び変位速度が(s0 , V0
),ここで,
 
である応力波が発生棒中を伝ぱしはじめる.
∵ 速度を加えた左端は直ちに動くが,棒には慣性があるので,その他の部分は直ちには動けない.そのために左端には応力が発生伝ぱする.この応力波の値は次のようである.応力の伝ぱ方向と変位速度の向きは逆になるから,変位速度は
- V0 ,応力値は式(1)の" - "を採用して,式(2)となる.
 引張り始めてから時刻tでは,この応力が達した部分,図では左端からx<Ct
,は速度で - V0 , 応力 s0 で動いており,その先は静止したままである.時間が経過するに連れて,この領域が広がり,やがて棒全体が動く.
例]鋼材ではE = 206
GPa ( 21,000 kgf /
mm2 ), r = 7.86×103
kg / m3 とすれば,
 
V0 = 1
m / Sec(時速3.6キロ)とすれば,発生する応力は
 
すなわち,速度をV0 m /
Secとすれば,s0 = 40.2
V0 MPaの応力が発生する.
例2]2本の棒の衝突により発生する応力波
  
2本の棒1,2が相対速度V0で衝突すれば,両棒には,変位速度及び応力がそれぞれ(s1 , v1
) ,( s2 , v2
)である応力波が発生両棒を伝ぱし始める.
 
 ここで,はZ1 , Z2 は次式で定義され音響インピーダンスと呼ぶ.
 
∵衝突後,棒1,2にはそれぞれ(s1 , v1
) ,( s2 , v2
)の成分を持つ応力波が発生すると考えると,棒1を伝わる応力波はx<0方向,棒2を伝わる応力波はx>0方向に伝ぱするから,動的フックの法則より
 
が成立する.衝突面aの応力と変位速度は
 棒1ではva1 = V0
+ v1 , sa1 = s1 
 棒2ではva2 = v2
, sa2 = s2 
となる.衝突面では,両棒の変位速度は等しく,力の釣合が成立しているから
 va1 = va2  ,  A1sa1 = A2sa
が成立する.これらより上式が得られる.なお,エネルギー保存測からも同様の結果となる.
注)衝突問題なので発生するのは圧縮応力,また棒1は当然減速するから s1 , s2 , V1 には負号が付く
例]
・剛体壁との衝突
棒2が剛体壁ならば,Z2 = ∞であるから,
 
これは,棒1の右端に変位速度- V0を与えるのと等価であり,例1]とは逆に伝ぱ方向と変位速度の方向が同じなので発生する応力は圧縮となる.
・音響インピーダンスが同じ棒の衝突
棒1,2の音響インピーダンスが同じならば,Z1 = Z2 であるから,
 
・材質が同じ棒の衝突
この場合,音響インピーダンスの比は断面積比となるから式(3)は次のようになる.
 
○応力波の反射透過
応力波は波であるので不連続部に到達すると,反射波・透過波を発生させる.そのためにその挙動は複雑になり解析も困難となる.
例1]
  
棒1中を伝ぱしてきた入射波( s0 , v0
)が棒2との境界面で一部は反射波( s1 , v1
)として棒1中へ引き返し,一部は透過波( s2 , v2
)として棒2中へ伝わるとすれば,応力の反射率及び透過率 a11 , a12 ,変位速度の反射率及び透過率 b11 , b12 は次式となる.
  
 
∵反射透過後の棒1,2の境界面aの応力と変位速度は
 棒1ではva1 = v0
+ v1 , sa1 = s0 + s1 
 棒2ではva2 = v2
, sa2 = s2 
両棒の境界面aの変位速度は等しく,力の釣合が成立しているから.
 va1 = va2  ,  A1sa1 = A2sa2
そして,動的フックの法則より
 
これらより, s1 , v1
, s2 , v2 を求め,s0 , v0 との比をとれば式(4)となる.なお,エネルギー保存測からも同様の結果となる.
例]
・固定端
境界が固定端ならば,棒2が剛体すなわち,Z2 = ∞とおけば良いから,
 
すなわち,同じ大きさの応力が反射するから,固定端反射により応力は2倍になる.これに対して変位速度は逆負号のものが反射するから,当然ながら,固定端の速度は不変.
・自由端
境界が自由端ならば,棒2が無い,すなわち,Z2 = 0とおけば良いから,
 
すなわち,逆符号の応力が反射するから自由端反射により自由端の応力は,当然ながら,常に0.これに対して変位速度は同符号のものが反射するから,自由端の速度は2倍となる.
・音響インピーダンスが同じ棒
棒1,2の音響インピーダンスが同じならば,Z1 = Z2 であるから,
 
反射率は応力変位速度共に0.すなわち,応力波にとって境界は存在しない事になる.ただし,力の釣合との関係で応力の透過率は断面積比となる.
注)このようにZが同じならば反射が生じない.そこで,電気回路とのアナロジーで,Zを音響インピーダンスと呼ぶ.
・材質が同じ棒
この場合,音響インピーダンスの比は断面積比となるから式(4)は次のようになる.
 
○例題]有限長の2本の棒の衝突による応力
以上の結果に基づいて,有限長の2本の棒の衝突により生ずる応力を図式解法によって求める方法を示す.
  
 簡単のために,同質同径で長さが異なる棒(1)が初速度V0で棒(2)に衝突する時両棒の応力を求める.ここで,棒(1),(2)の長さはL1 < L2
とする.
 @両棒が衝突した瞬間,それらの衝突面には式(3')より
 
  ここで,E:棒のヤング率,r:棒の密度,C = (
E / r )0.5:引張応力波の伝ぱ速度  
の応力波が発生,棒(1)では図の上方向すなわちx<0方向,棒(2)では下方向なわちx>0方向へ伝ぱ速度Cで,伝ぱし始める.
これらの応力波頭の軌跡は図右上のx−t面ではそれぞれ黒細線及び黒太線となる.
 At < t1
/2 (ここで,t1 = 2L1
/ C )で,棒(1)においてこの応力波が到達した領域の応力及び変位速度は
  
となり,圧縮応力が発生し,速度は1/2に減速する.応力波が未到達の領域は変位速度はV0で応力は生じていない.そして,t = t1
/2では棒(1)全体が変位速度はV0 / 2であり,s0の圧縮応力となる.
 Bそして,t = t1
/2でこの応力波はその上端で自由端反射し,式(4')より
 ( s0 , - v0 ) 図の赤細線 となって,棒(1)中へ引き返す.したがって,
t1 /2 <
t < t1 で,反射波が到達した領域の棒(2)の応力,変位速度は
  
となり,棒は上の方から応力0で完全静止して行き,t = t1 で棒(1)全体が完全に静止する.
 Cそして,棒(1),(2)の境界では反射波生じないから,これ以降すなわち,
t1 < tでは棒(2)は応力0で完全な静止状態である.
 D一方,この応力波はそのまま棒(2)へ透過するので.
t1 < t
< t2 / 2(ここでt2 = 2L2
/ C )で,透過波が到達した棒(2)の領域の応力および変位速度も
  
となり,棒(2)も衝突面から順に再び応力0で静止して行く.
 E一方,最初棒(2)に生じた応力は時刻t = t2
/ 2 に棒(2)の下端に到達し,自由端反射し
  ( s0 , v0
) 図中の赤太線
となって引き返す.したがって,
t2 < t では棒(2)下端の応力及び変位速度は
  
すなわち,棒(2)は下端部から,応力は0で変位速度はV0となって行く.
 Fそして,t = t2 にこの応力波は棒(2)中を1往復し衝突面へ到達する.このとき,
 ・この応力波の応力は引張であり,衝突面は既に無応力状態で,静止している
ので,この応力波は棒(1)中へは透過できず注)
 ・この時点で両棒は離れ,両棒の接触面の応力を0にする応力波が新たに生ずる.
今の場合,棒(1)は既に応力は0であるので,
 ・棒(1)には新たな応力波は生ぜずこれ以後完全に静止
棒(2)の衝突面の応力は反射波が到達した時点で -
s0 と成っているので,
 ・応力値は s0 ,そして,動的フックの法則により変位速度は - v0  
の応力波が発生.
注)∵接触面の応力は引張では有り得ないから
結局,
棒(1)は応力波が1往復のみ伝ぱしそれ以後は完全静止し,
  棒(2)には,最初生じた(- s0 , v0
)の応力波と,棒(1)に発生その上端で自由端反射した(s0 , - v0 )
の2つの応力波が,上下端で自由端反射を繰返し伝ぱすることになる.
 G棒の任意の位置,例えば,棒(2)A点の応力と変位速度は,これらの応力波がA点に到達する時間に,その値を順次加えて行けば求まる.上の例では
・応力は,大きさが s0 の圧縮と引張りを繰り返す.
 引張応力は図のA'点で最初に現れる.
・変位速度は,0 , v0
, 2v0 を繰返し尺取り虫のように進む
こと等がわかる.
 
○丸棒のねじり問題と引張圧縮問題は基礎方程式が同じ形となるので,次の変数の置換を行えば,上述の結果はねじりの問題にも適用できる.
 
 
○動的フックの法則

○回転角速度 W0 の棒1を静止棒2に急激に連結した時両棒に生ずる応力波

○棒1中を伝ぱしてきた入射波( t0 , w0 )の棒2との境界面に置ける反射率及び透過率

注)回転角速度は右ねじが進む方向がx>0方向となるものを正,トルクやせん断応力は正の面では右ねじが進む方向がx>0方向(負の面では右ねじが進む方向がx<0方向)となるものが正である.