物体に力(外力)が加われば,それに対抗して応力(Stress)が発生する.これは,外力によって物体は変形するけれども元の形に戻ろうとする性質(例えば,ばねを引っ張ればばねは伸び,力を取り去れば元に戻る)すなわち弾性のためである.この時,
・力に対応して物体内に生ずる物理量として 応力
を定義した.同様に,
・物体の変形に対応して物体内に生ずる物理量として ひずみ
を定義する.
応力には,断面に垂直に作用する垂直応力(引張応力,圧縮応力)と平行に作用するせん断応力の2種類があった.同様にひずみにも垂直ひずみ(引張ひずみ,圧縮ひずみ)とせん断ひずみの2種類がある.
下図は一端が固定され,他端に引張りの力を受ける棒の変形(伸び)を描いたものである.
棒をPで引っ張れば,棒上の任意断面a(位置x)はa' に移動し,b断面(位置x =
l)はb' に移動する.この時の移動量をuとする.
uは棒の変形を表す物理量であり,これを変位と呼ぶ
なお,uは棒上の位置座標xの関数であるから,正確にはu(x)と書くべきであるが,簡単の為に単にuと表す.(この様に以下では関数であってもその引数を省略して書く,それが関数なのか定数なのかは,問題によって各自判断されたい)
さて,この棒の応力はxによらず一定値(s = P / A,A:棒の断面積)であるから,棒の伸びも一定(一様)であり,uは次式になると考えられる.
上式のe = l /
lはこの棒が伸びる割合を表しており,xによらない定数である.言い換えれば,単位長さ当たりの伸びを表している.この単位長さ当たりの伸び
e を引張ひずみと定義する.
なお,Pの向きが逆で棒が圧縮される場合は
l は縮みとなり e は圧縮ひずみである.
以上をまとめると,垂直ひずみの定義は以下のようになる.
引張ひずみ
ここで,l0:変形前の棒の長さ,l:変形後の棒の長さ
なお,l<l0の場合は, e<0となり,棒は圧縮されて縮む.縮み量は
である.
なお,材料力学では変形は十分小さく必要に応じてl
= l0と置いて計算を簡単に出来る場合を取り扱う.
変形が十分小さいと仮定出来ない場合,応力やひずみは真応力,真ひずみで定義する必要がある.
上述の様に棒を引っ張れば荷重方向に垂直ひずみが発生し棒は伸びるが,断面は細くなる.逆に棒を圧縮すれば断面は太くなる(要するに体積変化が小さいように振る舞う).すなわち,棒の変形は荷重方向(垂直応力の発生方向)と同時にそれと直角な方向にも生ずる.このとき,荷重方向すなわち軸方向のひずみを縦ひずみ(通常は単にひずみ)と呼ぶの対し,これと垂直方向のひずみを横ひずみと呼ぶ.そうして,横ひずみと縦ひずみの比は材料により決まり,これをポアッソン比と呼ぶ.
ここで,d0は変形前の断面寸法(丸棒ならば直径,四角ならば一辺の長さ)であり,dは変形後の断面寸法である.
ポアッソン比nは材料定数であるので,正の値と成るように定義される.
棒の軸方向に沿って応力が一定でない場合には棒の伸び具合も一様にはならないから,棒全体の伸びを棒の長さで割っても垂直ひずみは求まらない.この場合は,垂直ひずみの定義「単位長さ当たりの伸び」を棒の各位置に適用しなければならない.すなわち,図のように,xにおける長さDxの微小区間の伸び縮みを考える必要がある.微小区間では変化も小さく変形は一様と考えられるし,その微小区間の長さが0の極限を考えればこれは正解となる(微分学はこのような微少量の極限を扱う計算である).
図のようにa断面とそこから微小距離
Dx 離れたb断面を考える.棒の変位をu(x)とすれば,
それぞれ,x方向に移動するから,この部分の微小伸びは,
従って,ひずみは
注)
すなわち,ひずみは変位の導関数に等しい.もちろん,一般には
e もx の関数である.
逆に,ひずみが判れば,棒全体の伸びは,微小部分の伸びを全て足し合わせたものとして次式で与えられる.すなわち,xにおける長さdxの微小部分の伸びは,
であるから,棒全体の伸びlはこれを棒の全長に渡って足し合わせ(積分し)
となり,棒のひずみ e が判っていれば計算可能である.
なお,上式にe = du
/ dxを代入すれば
となり,当然であるが,棒全体の伸びは,棒先端の変位u(l)と棒後端変位u(0) の差になる.
以上まとめれば,応力が変化する場合のひずみの定義は次のようになる.
棒の変位(変位関数)をuとして
なお,この場合には,応力及びひずみは引張りを正,圧縮を負として取り扱う事になる.
注)一様伸びの棒ではu = (l /l) xであるから,e = du
/ dx = l / lとなる.
例題
下図の様な台形板の両端を力Pで引っ張る.板の全伸びを求めよ.
ただし,垂直応力sと垂直ひずみeの間にはs =E・e(E:定数)の関係がある.
この問題を以下の手順で解け.
@板に加わる力と板の断面がわかっているから,板の垂直応力sが求まる.
A応力とひずみの関係が与えられているから,ひずみeが求まる.
Bひずみと変位・伸びの関係から,板全体の伸びが求まる.
上に示したように垂直応力に対応して垂直ひずみが生ずる.これと同様に,せん断応力に対応してせん断ひずみが生ずる.
下図のようにx面,y面にせん断応力tが作用する(せん断応力の共役性によりx面,y面には対抗する同じ大きさのせん断応力が生ずる)直方体acboはずり変形を受けて,ac'b'oになり,最初直角であった∠aocは∠bob'だけ小さくなる.この角度変化をせん断ひずみと定義しgで表す.すなわち,
ひずみが小さい場合には,図に示すように,
ここで,lは2面間の距離,sは2面のずれであるから,gは2面の単位距離当たりのずれでもある.以上まとめればせん断ひずみの定義は次のようになる.
せん断ひずみ
s:l離れた2面間のずれ
例題
せん断応力,ひずみが生ずる典型的な例として丸棒のねじりがある.
図のように,半径R,長さLの丸棒の一端を固定し,他端にトルクを加え中心軸xの回りにQ回転させると,棒はねじられ,せん断応力,ひずみが発生する.
このとき,棒外表に発生するせん断ひずみをつぎの手順で求めよ.
@固定端における断面の回転角は0,先端におけるそれは題意よりQ,そして,棒は一様にねじられることより,位置xにおける断面の回転角qを求める.
A@で求めたqから,外表における微小直方体oacbの2面間のずれdsを求める.
Bこれと,2面間の距離dxよりせん断ひずみgを求める