不静定問題例
○組立応力
複数の部品を組み立てるとき,寸法誤差によって応力が生ずる.
図のように長さlがd(ただしd<<l)異なる円柱と円筒の上下を,軸線を合わせて,固定し一体とする.組立後の長さは同じでなければならないから,図でd が正ならば,円柱は圧縮され縮み円筒は引っ張られ伸びることになる.

1.組立時に生ずる応力
組立後円柱に加わる圧縮力を R とすれば円筒はR で引っ張られている(作用反作用).これを不静定力とする.
円柱の縮みl1 および,円筒の伸びl2は,
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注)d<<lであるからこれでよい.(l+d)R/A1E1としないように.
変位の条件は,組立後円筒と円柱の長さが同じになることであるから,
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したがって,
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応力はそれぞれの断面積でわればよいから.
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2.組立後荷重が加わるとき
組立後この物体に引張り荷重Pを加えたときPのみによる応力はどれだけかを考えよう.
この場合,円柱が受け持つ引張荷重をNとすれば,円筒が受け持つ引張荷重はP−Nであり,両者の伸びは等しいから
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これによる引張応力は
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したがって,組立時の応力とPに応力を重ね合わせれば,円柱及び円筒には次の引張応力が生ずることになる.

3.組立時の応力と,組立後の加わる荷重を同時に考える場合
上式は,組立時の応力と引張荷重による応力を別々に求め,後で重ね合わせたが,両者を同時に考慮すれば次のように求まる.
組立後Pを加えたときの円柱および円筒の引張応力をs''1,s''2として,この物体を横断面で仮想切断し力の釣合を考えれば,
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そして,このときの円柱および円筒の伸びは
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そして,このときの変位の条件は,円柱および円筒ががそれぞれ伸びた後の長さが等しいのであるから,図より
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したがって
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これと力の釣合式よりs''1,s''2に関する次の連立方程式が得られる.

これを解けば,s''1,s''2は重ね合わせによる解と一致する.
○ボルトの締結
1.ボルトを締付け量(ナットのボルト上での移動量)
d 締め付けたときの締付力

図のように,円筒の中に中心軸を一致させてボルトを通し,ナットで締め付ける.締め付け力をR0とすれば,円筒はR0で圧縮され,ボルトはR0で引っ張られることになる.したがって,これによる長さlの部分のボルトの伸びlBおよび円筒の縮みlPは
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となり,もしもナットが動かないならば,ナットと円筒の間にはlB+lPの隙間ができてしまう.この隙間を埋めるのがナットの締付け量に他ならないから,変位の条件は
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である.したがって,締め付け力は
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となる.なお,ねじのピッチ(ナット1回転あたりナットが進む量)をt,ナットの回転数をnとすれば
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であるから,締め付け量の代わりにナットの回転数とねじのピッチで表すときは,上の各式のdをntでお置き換えればよい.
2.締め付け後ボルトに加わる荷重と引張力の関係
ボルトを締め付けた後ポルトの両端に引張荷重Pが加われば,ボルトは更に伸びるので,締付力は低下する.このときの締結力(円筒に加わる圧縮力)をRとすれば,力の釣合よりボルトにはP+Rの引張力が加わることになり,ボルトの伸びおよび円筒の縮みは
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そして,変位の条件は,やはり
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であるから
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そして,ボルトの引張応力および円筒圧縮応力は


(注 ボルトと円筒は一体となって変形するので,ボルトの両端に加えた荷重
P がそのまま全てボルトの引張力にならない事に注意,荷重と内力とは異なる)
P が増加すればR は減少しR = 0 となったときボルトは緩むしたがって,この時の引張荷重
Plim は
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である.なお,ボルトが緩むのは,
Plim が全てボルトに加わったときのボルトの伸びが
締め付け量 d に等しいときである
から,
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とも書ける.
3.負荷線図
以上の状態を,ボルトの伸び及び円筒の縮みを横軸,ボルトに生ずる引張力及び円筒に生ずる圧縮力を縦軸にとって示したのが,下図である.最初の締め付けで,負荷位置は図のA点にある.すなわち,ボルトの伸びと引張力の関係は図のB0Aのラインで表せ,円筒の縮みと圧縮力の関係は図のP0Aのラインで表せる.そして,これらの直線のこう配は
AB EB / l ,
AP EP / l である.ボルトに荷重が加われば,ボルトの負荷状態(伸びと引張力の関係)は直線B0A上を,板の負荷状態(縮みと圧縮力の関係)は直線P0A上を移動し,両者が離れない間は
l'B
+ l'P = d であるから,B点C点の横座標は常に同じ,すなわちBCは縦軸に平行となる.そして,荷重
P によってボルトに付加される引張力が BF,円筒に付加される引張力が
FC であり,BF + FC = P となっている.

ここで,円筒のヤング率が小さくなった場合を考える,直線AP0のこう配は小さくなるから,AP0は図の青色AP0'になる.この状態でボルトに荷重
P が加われば,ボルト,円筒の負荷状態はB'C' = P となる位置に移る.P が同じならば,ボルトに付加される引張力(したがって引張応力も)は明らかに前者の場合より大きくなる.P は機械の稼働中に加わる力であり,ボルトに加わる繰返し応力となる.軽量化の為等によって円筒(被締結物)の材質を変え,ボルトはそのままにしておくと,ボルトには今まで以上の繰返し荷重が加わる事があるから,十分注意する必要がある.
○不静定対称トラス
下図の対称な不静定トラスにおける各部材の引張力及び荷重点の垂直変位を求めよ.

部材1の引張力をQ1が,部材2(2本ある)の引張力をQ2とすれば,力の釣合は
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変形後も荷重点が一致していることより,変位の条件は,
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そして,
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したがって,Q1, Q2は次の連立方程式の解である

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応力は,これらを各部材の断面積でわればよい.また,荷重点の垂直変位dVは部材1の伸びに等しく,
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である.
注)不静定力による解法.
このトラスを,荷重点で仮想的に分離し,部材1の棒と,部材2のみからなる対称トラスとに分離して考える.
部材1が受け持つ荷重Q1を不静定力とすれば,
部材2のトラスが受け持つ荷重はP−Q1
そして,部材2の引張力Q2,伸びl2及び垂直方向変位dVは

変形後も荷重点は一致しなければならないから,変位の条件は
(部材1の伸び)=(対称トラス2の垂直変位)
である.したがって,
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これを解けば同じ結果が得られる.
1.内圧を受ける組合わせリングの円周方向引張応力

図のようなヤング率E1肉厚t1の外リング1と,ヤング率E2肉厚t2の内リング2ででき,内圧
を受ける組合せリングでは
接触面の接触圧pmを不静定力とすれば,
外リング1は内圧pmを,
内リング2は内圧p−pmを受ける
薄肉リングであるから,それらの円周方向引張応力s1,s2および直径増加DD1,DD2は次のようになる.

ここで,Dはリングの直径
変位の条件は,
(両者の直径増加は等しい)
であるから,これより,接触圧pmは
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と求まり,応力は
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となる.
なお,E1=E2,すなわち,両者の材質が同じであれば
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となって,単に肉厚t1+t2の薄肉リングに内圧が作用する問題となる.
2.組合せリングの作成(焼きばめリング)
内圧を受ける組合わせリングの円周方向引張応力

図のようにヤング率E1肉厚t1内径Dの外リング1と,ヤング率E2肉厚t2外径D+d(d<<D)の内リング2ででき,内圧
を受ける組合せリングでは
接触面の接触圧pmを不静定力とすれば,
外リング1は内圧pmを,
内リング2は外圧pmを受ける
薄肉リングであるから,リング1の円周方向引張応力および直径増加s1,DD1,リング2の円周方向圧縮応力および直径減少量s2,DD2はそれぞれ次のようになる.
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変位の条件は
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であるから,
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そして,各リングの円周方向応力は
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注)このような組合せリングリングを作るには,リング1を加熱し内径をD+d以上にしてからその内側にリング2を置いた後徐冷する.このような方法を焼きばめと呼ぶ.
以上のようにして出来た焼きばめリングに内圧pが作用するときは,先に求めた引張応力を重ね合わせればよいから,リング1およびリング2の引張応力s'1,s'2は

であたえられる.
○一般的な非対称トラスの解法

図のように,N本の部材からなる非対称トラスにおいて,k番目の部材の断面積,ヤング率,取付角をそれぞれ,Ak,Ek,qk 引張力をQk とすれば,水平及び垂直方向の力の釣合より

k番目の部材の伸びをlk,そして,荷重点の垂直変位および水平変位をdV,dHとすれば,

式[a],[b],[c]はN+2個の未知数,Q1,Q2,・・・,QN,dV,dHに関する連立方程式であるから,これを解けば各部材の引張力および水平,垂直方向変位が全て求まる.