不静定問題の代表例として,熱応力の問題がある.物体は熱せられるとあらゆる方向に膨張し(冷却されるとあらゆる方向に収縮し)熱ひずみが発生する.そして,何らかの拘束があれば,熱による変形を妨げるために,応力による変形が生ずる.すなわち,
(温度変化)+(拘束)→(応力の発生)
となる.(注 温度変化のみでは熱応力は発生しない)
○熱ひずみと熱応力
物体の温度が上昇すれば,物体はあらゆる方向に膨張し注),次式で与えられる熱ひずみ(すなわち単位長さあたりの伸び)が生ずる.
例えば,図(a)のように,拘束のない長さlの棒ならば,温度がT上昇すれば,熱による棒の伸びlTは
となる.このとき,同図(b)のように,棒の両端が完全に固定されているとすれば,棒は壁から反力Rを受け,これによる,圧縮応力sおよび縮みlsは
そして,この縮みlsが温度上昇による伸びlTに等しく棒は全体として伸び縮み0であるから
となる.このように,熱膨張と拘束が組み合わさって生ずる応力を熱応力と呼ぶ.
線膨張係数は普通の鋼材では10-5/℃程度であるから,100℃の温度変化では熱ひずみは10-3程度となり,拘束が強い場合はかなり大きな熱応力となる.
拘束が完全ではない場合は,図(c)のように壁と棒の間にばね定数Kのばねを介していると考えられるから,バネの反力をR
とすれば,棒に生ずる圧縮応力は
そして,変位の条件は,(棒の伸び)=(ばねのたわみ)であるから
となる.ここで,b=AE/Klはこの棒をばねと見なしたときのバネ定数AE/lと拘束の強さをバネ定数で表したときのバネ定数Kとの比であり,
完全拘束ならばK=∞であるから,b=0したがってs=EaT
拘束無しならばK=0であるから,b=∞したがってs=0
となり,熱応力の最大値はEaTである.
注)よく勘違いする例として,
図のような穴あき円板では,温度上昇によって,外径,D,内径dともに増加
となり,内外径の差h=D−dもやはり,
と増加する.すなわち,ドーナッツを熱すれば,ドーナッツは膨らんで,穴も大きくなる.
○組立物の熱応力
図のように円筒と円柱を組み立てた後温度がT上昇したとき,熱応力によって円柱および円筒に生ずる応力をs1,s2とすれば,円柱および円筒の伸びは,それぞれ温度上昇によるものと応力によるものの和であり,変位の条件より両者は等しいから,
一方外力は作用していないので,力の釣合式は
したがって,s1,s2に関する連立方程式は
となり,これを解けば
となり,T>0で
a2>a1(熱による伸びは円筒の方が大きい)ならば
円柱には引張応力,円筒には圧縮応力が発生する.
a2<a1(熱による伸びは円柱の方が大きい)ならば
円柱には圧縮応力,円筒には引張応力が発生する.
a2=a1(熱による伸びは両者で等しい)ならば
円柱,円筒ともに熱応力は生じない
○対称トラスの熱応力
図のような対称トラスの温度がT上昇するとき,部材1,2に生ずる引張応力をs1,s2とすれば,節Oにおける力の釣合は
部材1,2の伸びl1,l2は,それぞれ温度上昇および応力によるものの和であるから
そして,変位の条件は l1cosq= l2 であるから
したがって,s1,s2は,連立方程式
の解であり,
そして,節Oの垂直方向変位dVは,下方に
となり,T>0とすれば,
a2>a1cos2qのとき部材1は引張応力,部材2は圧縮応力
a2<a1cos2qのとき部材1は圧縮応力,部材2は引張応力
a2=a1cos2qならば熱応力は生じない.
また,当然であるが,上の解によれば,T>0のときa1,a2の値によらず節Oは下がり,部材1,2が同質かつq=0ならば,熱応力は生じず,dv=laTとなり,長さlの棒の温度上昇による伸びと一致する.