一般の三次元問題は材料力学で取り扱う範囲を超えるので,以下では2次元問題に限る.
薄い板などでは,板面に垂直にz座標をとる.そうして,z面上の応力成分が全て0と仮定する.このような応力状態を平面応力と呼ぶ.平面応力では板面に平行な二次元の座標軸{x,y}のみを考えればよく,値を持つ応力成分も4個であり,せん断応力の対称性を考慮すれば,実質3つとなる.
平面応力状態の応力テンソルおよびひずみテンソルは次式で与えられる.
マトリクス形では
各成分は次のようである注1).
なお,z方向の引張ひずみ(板厚方向のひずみ)は注2)
で与えられる.
応力−ひずみ関係は
注1)以下 sxx , eyy 等同じ添え字が2つ表れる成分については,添え字を1つに省略する.
すなわち,sx = sxx , ey = eyy 等である.また,せん断応力は
s の代わりに t を用い txy と書く.
注2)三次元のフックの法則に szz = 0を代入すれば
すなわち,弾性体には横ひずみが発生するので,たとえz方向垂直応力が0でもz方向の垂直ひずみは生ずる.
座標系{x , y
, z:ex , ey
, ez }がz軸の回りに q 回転した座標系を{x' ,
y' , z':e'x
, e'y , e'z
} とする.
これらの座標系の基底ベクトルの内積は
そして,応力成分およびひずみ成分の座標変換公式は次式で与えられる.
ただし,( sx , sy , txy ) ,
( ex , ey , exy ) は応力テンソルおよびひずみテンソルの {x ,
y , z } 座標系での成分であり,( s'x
, s'y , t'xy
) , ( e'x
, e'y , e'xy
) は {x' ,
y' , z' } 座標系での成分である.
○主応力
平面応力・ひずみテンソルの固有値より
回転した{p1,p2,z}座標系ではせん断成分が0であり,応力テンソルおよびひずみテンソルの成分は
ここで
そして、
となる.
s1 , s2 , e1 , e2 (および s3 , e3 )を主応力および主ひずみと呼び,これらは垂直応力あるいは垂直ひずみの極値(最大値あるいは最小値)である.注3)
○主せん断応力
せん断応力の極値(最大・最小値)を主せん断応力と呼び平面応力下では次のようである.
z軸回りに a - p/4回転した座標面で注4)
主応力軸p2 回りに -p
/
4回転した座標面で注5)
主応力軸p1 回りに -p / 4回転した座標面で注5)
注3)座標変換公式(6)においてs 'x はds 'x / dq = 0 となる角度で最大値となるが,これは式(7)のaと一致する.
注4)座標変換公式5)より,せん断応力t 'x はdt 'xy
/ dq = 0 となる角度で最大値となる事より,式(11)が得られる.
なお,他の教科書,参考書ではこれを t1 , t2と定義し
と記してあるが,この場合 t1 はp1 面のp2 方向応力,t2 はp2 面のp1 方向応力を意味し,せん断応力の共役性より両者はもともと同じものであるので,これらを区別しても意味がない.
本書では,これらを区別せず,z 軸すなわちp3 軸と平行な面に生ずるせん断応力の極値の意味で t3 と表示する.
注5)t1 はp1 軸と平行な面に生ずる主せん断応力,t2 はp2 軸と平行な面に生ずる主せん断応力を意味する.
前出の式(6)〜(11)はモールの応力円を描けば図式的に計算でき,見通しも極めて良い.
応力テンソルの成分が
座標系{x , y
}では( sx , sy , txy )
{x
, y }がz軸回りにq 回転した
座標系{x ' ,
y ' }では( s 'x
, s 'y , t 'xy
)
であるとする.下図のように
[1]横軸に垂直応力,縦軸にせん断応力,
ただし,縦軸は下向きに正を取ったグラフ上に,
[2]点A:( sx , txy ) ,点B:( sy , -txy )をプロットし,
[3]直線ABと横軸(s 軸)の交点をOとし,
Oを中心として,点A,点Bを通る円を描く.
この円をモールの応力円と呼ぶ.このとき,
[4]OAを反時計回りに2q 回転させた応力円上の点A',
OA'と応力円の反対側の交点B'
の座標は
A'点:( s 'x
, t 'xy ) ,B'点:( s 'y
, -t 'xy )
すなわち,点A',B'は同じ応力状態の{x ' ,
y ' }座標系での成分を示す.
[5]横軸(s 軸)と応力円の交点C,Dの座標は
点C:(s1 , 0
),点D:( s2 , 0
)
ここで,s1 , s2は主応力
[6]主応力軸p1はx軸から反時計回りにa 傾いた位置
ただし,2a = ∠AOC
[7]主せん断応力t 3は応力円の下頂点Hの縦座標であり,
作用面はp1面から時計回りにp / 4傾いた面である.
∵作図法より,応力円の中心点Oの横座標s0及び,半径Rは
となり,図より次式が成立する
また,A' 点の座標を( s
'A
, t 'A )とすれば
[a],[b]を[c]に代入すれば
∴式(6)より, s 'A
= s 'x ,t 'A
= t 'xyとなる.B'点についても同様である.
また,主応力面ではせん断応力成分が0であるので,これは応力円図のC,D点であることは明らか.そして,C,D点の横座標sC,sDは
∴式(9)より,sC =
s1 ,sD =
s2 となる.
また,あきらかに点Hでせん断応力は最大となる.そして,H点の縦座標tH は
∴式(11)よりtH = t3となる.
一軸引張試験によれば,応力が小さい間は荷重を取り去れば棒は元の長さに戻るが,応力がsYを超えると荷重を取り去っても棒は元の長さに戻らず永久変形(塑性変形)が生ずる.sYを降伏応力と呼び塑性変形が生ずる限界の応力値を表す.設計に際しては応力がsYを超えないようにすることが基本である.
組み合わせ応力下での塑性変形開始の条件を降伏条件と呼ぶ.降伏条件には様々な説があるが,代表的なものは以下の3つであり,平面応力の場合のsYとの関係を示す.
○主応力説
[主応力の最大値がある値を超えると塑性変形が生ずる]
○最大せん断応力説(トレスカの説)
[主せん断応力の最大値がある値を超えると塑性変形が生ずる]
○せん断ひずみエネルギー説(ミーゼスの説)
[せん断ひずみエネルギーがある値を超えると塑性変形が生ずる]
これらを,s1 - s2面上に図示すれば,下図のようになり,主応力 ( s1 , s2 ) がそれぞれの閉曲線の内側にあるときは弾性域であり,これらの曲線を降伏曲面と呼ぶ.
∵一軸応力状態では,引張応力をs とおいて
であるから,このときの主応力の最大値および主せん断応力の最大値はそれぞれ
そして,s = sYとなったときに降伏したのであるから,主応力説及び最大せん断応力は
である.
一般の応力状態におけるせん断ひずみエネルギーは
平面応力状態では,s3=0であるから
引張試験ではs1=s ,s2=0であり,s=sYとなったときに降伏したのであるから,せん断ひずみエネルギが
になれば降伏することになる.したがって,降伏条件は
となる.そして,上式に応力成分と主応力の関係式を代入すれば
式(14)はs1,s2のいずれかがsYであるから,s1−s2面では図のように一辺が2sYで原点を中心とする正方形となる.
また式(14)については,第1,第3象限では
であるから,これらの象限での降伏条件は
となり,主応力説と同じである.
また,第2,第4象限ではs1とs2の符号が異なるので|t3|が最大となり,降伏条件は
となる.したがって,式(15)は図の赤線で示す六角形となる.
さらに,式(16)については,2次式であるから楕円であることが分かる.
そして,s2=0のときは,s1=±sY,s1=0のときは,s2=±sYであるから,この楕円は
を通る.また,(sY , sY)及び(-sY , -sY)を通ることも明らかである.したがって,この楕円はトレスカの説による六角形に外接することがわかる.