トラス(truss骨組み構造)
棒材(これを部材と呼ぶ)を回転自由な節で連結し組み立てた構造物をトラス,その構造が1平面内にあるものを平面トラスと呼ぶ.
トラス部材の両端は回転自由であるので,部材には引張圧縮のみが生ずる.
トラスに生ずる軸力が
引張りの場合この力は節を引き寄せる方向に
圧縮の場合はこの力は節を遠ざける方向に作用する.
そして,トラスの問題を解くためには,各節において力の釣合を考える.
なお,回転を固定した節を剛節とよび,剛節でできた骨組み構造をラーメン(rahmen)と呼ぶ.
例1]簡単なトラスの応力と変形
図のトラスにおいて部材1,2に生ずる引張力Q1,Q2は次式となる.
応力s1,s2は,これらを各部材の断面積で割ればよいから
そして,荷重点Oの垂直方向および水平方向変位dV ,dHは
導出]部材1,2 の引張力をQ1,Q2とすると,荷重点Oにおける力の釣合は
この連立方程式を解けば
応力は,これを各断面積で割ればよい.
トラスの変形は,各部材の伸びから求まる.すなわち,各部材の伸びl1,l2は
であるから,変形後の荷重点O'
は,
Aを中心とする半径l1+l1の円とBを中心とする半径l2+
l2の円の交点
であるが,l1,l2はl1,l2に比べて十分小さいから,この交点は
部材 1 をl1延長したO" からのAOの垂線と
部材 2 をl2延長したO"' からのBO垂線との交点
となる.これを図示すれば上図右のようになるから,同図より,荷重点の水平方向移動量をdH,垂直方向移動量をdVとおくと,
となり,dH,dVに関する連立方程式が得られる.これを解けば
これに,l1,l2を代入して式(3)となる.
注)なお,変形後の荷重点は左下に移動するものとして,変位図を下図のように画いた場合は
したがって,
となり,当然ではあるが,同じ結果となる.
例2]部材が多数あるトラスの軸力
図のように,多数の節と部材とでできたトラスの場合,各節における力の釣合を順次考えて,各部材の軸力がわかる.
図の例では,各節に,a,b,c,d,e,fと記号を付け,各部材には番号1〜9を付け,部材の引張力をQi:i=1,2,・・・,9とする.
節aは水平方向運動自由であるので,垂直方向の反力のみを受ける.これをRaとおき,力の釣合を考えれば,
節bでは
以下同様に,節Cより
節eより
節dより
最後の2式はQ8とRaに関する連立方程式になっているから,これを解けば
また,節fの垂直方向反力をRf,水平方向反力をHfとして節fでの力の釣合を考えれば,
となり,f点での反力もわかる.
Ra=P/3を上記の各式にもどせば,結局,各部材の引張力は次のようになる.
なお,最初にトラス全体について垂直,水平方向の力の釣合,および,f 点回りのモーメントの釣合を考えれば
が得られるから,これから計算を開始してもよい
力のベクトル図による解法
以上では,各節における力の釣合を式で求めたが,各節で力が釣り合っているのであるから,
各節における力のベクトル図は閉じていなければならないので,
方眼紙上に各節での力のベクトル図を描き長さを物差しで測れば(力のベクトル図)
各部材の軸力求めることが出来る.
○節aではRaが与えられるから,これを適当な長さで(図では4目盛り)方眼紙上に描く.
Q1およびQ2は作用方向がわかっている(図の青線)ので,Raを基点としてQ1,Q2を順次描き
Ra→Q1→Q2が閉じるように,それらの長さと向き(節aに対する作用方向)を決める.
(Q1,Q2は図のようになる)
○次に,節bに作用するベクトルはQ1,Q3,Q4であるが,
Q1の大きさは既にわかっており,その作用方向は節aとは逆である.
Q3,Q4は作用方向がわかっているので,Q1を基点としてQ3,Q4を順次描き,
Q1→Q3→Q4が閉じるように,それらの長さと向き(節bに対する作用方向)を決める.
○以上の手順を順次進めれば,全ての力のベクトルがわかる.
○図の結果によれば,Raの大きさはPの1/3であり,
その他各部材の引張力の大きさもPとの比で与えられることになる.
例3]
図のような対称トラスでは,斜め部材1の引張力Q1および横部材の圧縮力Q2は
となり,AA' 間の開きDYは
となる.
∵節A(またはA')における力の釣合より,
そして,節B(またはB')における力の釣合より,
そして,部材1の伸びl1,部材2の縮みl2は
部材2の縮みを無視した場合の節Aの垂直方向変位d'Aは
部材2の縮みも考慮した場合は,部材1はそれぞれl2 / 2水平方向に平行移動することになるから,これによる節Aの垂直方向変位はd''Aは
したがって,節Aの垂直方向変位dAは
AA'間の開きは2dAであるから
例4]
図のような,長さlの三本の部材でできた,正三角形トラスでは,
部材ABには引張力 P
部材ACには圧縮力 P
部材BCには圧縮力 P/2
が生じ,荷重点Aの水平方向および垂直方向変位dH ,dVは
となる.
∵ A点の垂直方向力の釣合より,部材ABの引張力をQとすれば部材ACには圧縮力Qが作用する.
そして,水平方向力の釣合より.
したがって,ABはl 伸びACは同じくl 縮むことになる.ここで
B点における水平方向力の釣合より部材BCには圧縮力Q3が作用し,l3縮む.ここで
,
以上のことに基づいて,A点の移動を考える.
a]先ず,部材BCの縮みを考えないときのA点の位置をA''とすれば,図より
b]部材BCの縮みによる変位は部材ABを水平方向にl3平行移動させることになるからこれを考慮したときの荷重点の位置は同図A'になる
したがって,変形後の荷重点の水平方向変位は
∴
なお,垂直方向移動量は上方向に
エネルギ−法による変位の計算
長さl,断面積A(一定),ヤング率Eの棒の軸力がQ(内力)である棒に蓄えられるエネルギ−Uは
で与えられる.そして,Qが荷重Pk:k=1,2,・・によって発生しており,Q = Q(
P1,P2,・・・)と書ける場合,
荷重Pkの作用点のPk方向変位dkは次式で与えられる.
これを,断面積,長さおよびヤング率がそれぞれAi,li,Ei:i=1,2,・・の部材からなるトラスに適用すると次のようになる.
荷重Pk:k=1,2,・・が作用するトラスにおいて,i番目の部材に生ずる軸力Qiが
で与えられるとすれば,このトラスに蓄えられるひずみエネルギ−は
となり,荷重Pk の作用点のPk方向変位dkは次式で求まる.
この式によれば,トラス部材の軸力さえわかれば,幾何学的関係を考えなくても,荷重点の変位が求まる.
仮想荷重点の変位
荷重が作用していない節や方向の変位が知りたい場合は,それに対応する節や方向に値が0の荷重(仮想荷重)を導入すればよい.すなわち,
仮想荷重F = 0の作用点のF方向変位dFは,仮想荷重も考慮したときの部材軸力を
と置いて,
例1]の場合,部材の数は2であり,dVは荷重P方向の変位,dHは荷重F方向の変位にそれぞれ一致するから
となる.そして,力の釣合より
であるから,
となり,これらを代入すれば
となり,幾何学的関係を考えて求めた結果と一致する.
上の例では,荷重Fも実際に作用しており,これによって,dHを求めた.もしもFが作用していない場合dH は求まらないように思える.しかしながら,このような場合には,仮想荷重F = 0を考えればよい.
すなわち,
であるから,
となる.このように,計算に際しては,仮想荷重による偏導関数を求めた段階でF = 0とおき,それをエネルギー式に代入すれば,計算の手間が省ける.(もちろん,前述の式(3)においてF = 0とおいたものと一致する.)
注)この時,dVについては,もちろん,最初からFを考えずに
として解けばよく,結果は
となる.
例題1 例4]の節Aの垂直方向変位および節Bの水平方向変位を仮想荷重を導入して求めよ.
例題2 例2]の荷重点の垂直方向変位を求めよ.