ひずみ依存性材料を用いたプロテクターの開発
近年、スポーツや日常生活における安全意識が向上しており、様々な場面でヘルメットなどのプロテクター(保護具)の着用が推奨されています。保護具に使用される緩衝材の中で、エネルギー吸収能が高いものは硬質フォーム(高密度発泡スチロールなど)であり、動きを伴わないヘルメットの緩衝材として用いられます。一方で、人体の動きに追従して変形できる軟質なフォームも保護具の緩衝材として広く利用されます。

硬質なフォームの高いエネルギー吸収能と、軟質なフォームの柔軟性をあわせもつ材料があれば、革新的なプロテクターが実現できます。すなわち、「低速な変形では柔軟に変形し、高速な変形では硬化する」という変形速度に応じて変形特性を操作することができれば、「運動時や装着時には柔軟に変形ができ装着性に優れ、衝突時のみ硬化して人体を守る」プロテクターが実現されます。本研究では、「低速な変形では柔軟に変形し、高速な変形では硬化する」材料を開発し、「運動時や装着時には柔軟に変形ができ装着性に優れ、衝突時のみ硬化して人体を守る」プロテクターへの応用を検討しています。
■ ひずみ速度依存性を操作したエポキシ樹脂・エポキシフォーム
「低速な変形では柔軟に変形し、高速な変形では硬化する」材料を実現するため、熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂を用いています。エポキシ樹脂は、主剤と硬化剤を配合し加熱硬化さることで、3次元架橋構造が形成され、硬質なプラスチックになります。

通常、主剤と硬化剤が過不足なく反応する化学量論比により配合されますが、主剤と硬化剤の配合比を化学量論比から意図的にずらすことで、ガラス転移温度を変化させ、低速な変形でゴム状のエポキシ樹脂が得られます。このエポキシ樹脂を発泡化させると、「低速な変形では柔軟に変形し、高速な変形では硬化する」エポキシフォームになります。

本研究では、このような特殊なエポキシフォームを開発し、各種材料試験機で幅広いひずみ速度(変形速度)における材料特性を取得しています。特に、万能材料試験機では実施できない中・高ひずみ速度試験は、研究室で設計・製作したカムプラストメータとスプリット・ホプキンソン棒(Split Hopkinson bar, SHB)法試験機を利用します。

■ プロテクターへの応用
開発したエポキシ樹脂・エポキシフォームを各種プロテクターへの応用を検討しています。スポーツ用プロテクターの他、日常生活における不慮の事故に備えた装着性の良い頭頚部プロテクターなど、幅広い分野への応用を目指しています。
