機械学習を用いたデスクトップファブリッシング用小形工作機械の高精度化

研究目的

 近年,スマートフォンやタブレットなど,身の回りの製品の小形化にともない,これらの製品に用いられる小形機械部品の製造が重要になっています.これらの部品の多くはマシニングセンタに代表されるような大形の工作機械によって製造されていますが,製造部品の寸法に対し過大な形状となっています.そのため大形の工作機械を用いる現状の製造ラインは必ずしも合理的とは言えず,大規模ラインを有する工場では照明や空調の維持に莫大なコストが生じることが問題となっています.  工作機械を小形化することができれば,現行の大規模製造ラインを合理化することができるほか,小形軽量であるために工作機械の配置変更が容易であり,製造ラインを柔軟に変化させることができます.そのため,昨今製造現場で求められている多品種変量生産にも対応できると考えられます.

そこで,本研究では以下の内容の実現を目指しています.

・機械部品として主な鉄系材料を高精度に加工可能な小形工作機械(3軸フライス盤)の機構開発
・機体変形のセンシングに基づく加工経路補正手法による高精度加工の実現
機械学習を用いた最適加工条件の決定による工作機械の省エネ化や振動軽減の実現

製作した小形工作機械の機構

 一般的な小形工作機械はテーブル,主軸機構,コラムの3つの構造をベースとなる筐体に配置することで成り立ち,それぞれの構造は工作物の移動,工具の移動,加工空間の確保の役割を持ちます.しかし,従来の機械ではベース部分の変形が著しいことに加え,各構造で生じた変形が互いに影響を及ぼし合うことより,大形の工作機械では見られない大きな機体変形が生じます.そこで,製作した工作機械では剛性が確保された強固な定盤をベースとし,各構造をその上に独立に設置することで,変形を機体上部の構造に集中させます.その変形を考慮し,後述する補正手法を用いることで,既存の小形工作機械では削ることが困難とされている鉄系材料を高精度に加工することが可能となります.

加工経路補正手法

 小形工作機械は構造を小さな空間に集約するため,大形の工作機械並みの機械剛性を確保することが非常に困難です.しかし,剛性が低下することで,加工中に生じる力や振動により各種構造が大きく変形し,加工誤差が発生してしまいます.そこで,本研究では構造を頑丈にすることで変形を抑えるのではなく,各構造の変形に合わせて工具の位置を最適化するように加工経路を制御することで,加工誤差の発生を抑制します.そのため各種センサを用いて構造に作用する力や振動をモニタリングし,そのデータと構造の変形との関係を明らかにすることで,その変形に合わせた加工経路制御手法を構築します.

加工条件最適化手法

 工作機械による加工において,機体の振動や工具の破損を防ぐためには,切込量や,工具の回転数といった加工条件を適切に設定する必要があります.しかし実際の現場においては,切削条件を仮決定し加工を行い,加工中の音や加工後の工作物の状態,刃物の摩耗具合などで切削条件を少しずつ変更し最適な加工条件を決定するといった繰り返し作業が生じます.これは作業者の経験や勘,使用する工作機械の特性に影響されるため,最適な加工条件を簡易に決定することは困難です.そこで本研究では,工作機械に取り付けた各種センサの値から機械学習を用いて,自動的に最適な加工条件を決定する手法の実現を目指します.