インテリジェントロボットハンドの研究

この研究では、ヒトの手のように複数の指を持つロボットグリッパ(多指ロボットハンド)に触覚センサや近接覚センサを搭載し、人間が日常作業で行うような器用な物体把持動作を実現することを目的としています。

触覚センサは、ヒトの触覚のように、物体と触れたときの位置や力などをロボット自身が認識するものです。機械的な動き(変形・変位など)を電気的な状態(電気抵抗・静電容量など)の変化に変換する仕組みが用いられます。

近接覚センサは、ヒトには無い感覚ですが、表面から少し外側の空間にある物体の位置や距離を推定可能にするものです。工学的には、接近距離に対する光学反射・電磁誘導・静電容量などの変化を利用して情報を取得します。触覚を空間的に拡張したもの(2.5次元触覚)、あるいは、視覚をごく近距離に特化したものと解釈できます。

私たちは、機構・計測・制御が相互に密接に関連するという考えから、この3要素について以下のような観点で研究開発を行っています。

機構…人間に代わって複雑な仕事をこなしたり、人間と触れ合ったりできるロボットハンドを実現するには、機構の自由度や柔軟さをうまく設計する必要があると考えられます。例えば指の本数や関節数、長さ、配置、関節を動かすモータの出力特性などを適切に組み合わせなければなりません。私たちの研究では、これらの設計項目に対して、指先の触・近接覚センサの特徴やそれに基づく指の動きの制御方法がどのように関連するかが研究対象となります。また、構造材料にシリコーンゴムなどを用いた柔らかいロボットハンドの研究開発も行っています。

計測…ロボットが予め定められた以外の動きを行うには、その動き方を決めるためにロボット自身が周囲の状況を認識(外界センシング)する必要があります。物体把持においては、例えば、ロボットハンドと物体が固定された状態を維持するには各指をどの位置にどの程度の力で押しあてればよいのか、物体を手の中で握り替えるときにはどのように指を動かせばよいのかを決めなければなりません。私たちの研究では、従来のロボットにはできなかったような器用な動きを実現するために、ロボットの構造や動きを考慮した新たな構造・検出手法・情報処理手法を有する触・近接覚センサの開発を行っています。

制御…近接覚センサは触れる直前の物体の位置の情報を、触覚センサは触れた後の力の分布の情報を提供するので、ロボットの制御器(人間で言えば頭脳)はこれらの入力情報を利用して適切な出力動作(目標関節角度・角速度・トルクなど)を決定します。触・近接覚センサ情報に基づく制御の研究において、私たちは応答の素早さを重視しています。具体的には、触れる直前または既に触れている物体の状態変化に追従するために、条件反射的な制御の仕組みを導入しています。これにより、物体の動きに追従して不意の衝突を避けたり、動いてくる物体を強い衝撃を与えずに掴んだりすることが可能になります。一方で、条件反射による素早い動作と詳細な観察に基づく知的な動作を階層的に組み合わせた制御の研究も行っています。

(最終更新:2019年9月26日)

【研究紹介動画(2019年9月更新)】