医工学-CAE・運動解析による医療の高度化

本研究は関節疾患のメカニズム解明や外科的手術法の改善といった課題に対してCAE・運動解析などの機械工学の知識を用いて取り組み,医療の高度化に貢献することを目的としています.また,これらの課題を金沢大学医薬保健系附属病院と連携して取り組んでいます.


■研究テーマ

 現在私たちが取り組んでいる課題は,「母指CM関節(CMC関節)」と呼ばれる親指の付け根に位置する関節の運動・CAE解析です.

母指CM関節

母指CM関節は親指の運動に欠かせない関節ですが,日常生活において負荷が生じやすいことから「母指CM関節症」と呼ばれる疾患を容易に引き起こします.これは母指運動時の疼痛や可動域制限をもたらし日常生活に大きく支障をきたします.このため本疾患は手外科的に非常に重要になります.
しかし,母指CM関節の運動の複雑さやサドル形状の特殊な構造のため,運動メカニズムの把握や疾患の進行メカニズムの解明には多くの困難がともない,未だ十分に検討されていません.
私たちは運動解析手法やCAE解析を適用することでこれらの課題解決に取り組み,さらにより効果的な手術法を提案することを目標としています.


■CAEによる進行メカニズムの解明・手術シミュレーション

ここではCT画像から関節の3Dモデル化を行い,この3Dモデルを用いてCAE解析を行います.シミュレーション上で人体の関節構造を再現することで非侵襲的に生体内の力学状態を明らかにし,疾患の進行や疼痛の要因を見つけ出します.さらにこれらのデータをもとに実際の手術をシミュレーションし,より効果的な手術方法を検討します.


■運動解析による人工関節治療への応用・母指運動の再現

母指CM関節症の治療法の一つに人工球関節置換術があります.しかし,これには母指運動の複雑さのためその動きを完全に再現することが難しいという問題があります.そこで私たちは人工関節の最適な設置位置を運動学的に決定する研究を行っています.
また,運動解析による母指運動の近似により複雑な運動の様子を詳細にとらえることを可能し,これまで明らかにされていなかった運動メカニズムや運動中の関節への影響を解明することに取り組んでいます.


■関節固定術に用いるロッキングプレートの安全性向上のための力学解析

母指CM関節症の治療法の1つに関節固定術があります.この手術では,ロッキングプレートと呼ばれる金属製のプレートを用い,母指CM関節を動かないように固定することで関節の痛みを緩和します.しかし,現在の固定方法ではこのロッキングプレートが破損する例が報告され問題となっています.また,安全性を高めるための固定手法やプレートが複数検討されていますが,力学的な検討ができておらず最も安全な固定手法は明らかにされていません.そこで私たちは,母指CM関節とロッキングプレートの3Dモデルを用い,実際の手術で用いられる固定方法を再現した力学解析を行います.これにより,ロッキングプレートに発生する応力を最も小さくする固定手法を見つけ出すことで,より安全性の高い手術法を検討しています.